PPAP商標の件は何が問題??

(冒頭画像は、「AVEX,ピコ太郎(PIKOTARO)オフィシャルサイト」より引用)

鈴木えりな

『先生!ピコ太郎の”PPAP”が、全くの他人に商標出願されてしまっているニュース、ご存じでしたか?!(怒)』

たむきょん先生
『おはよう。朝から憤慨した様子でどうしたの?』

鈴木えりな
『先日、テレビで”弁理士”という言葉を初めてぐらいに聞いて、すっごく嬉しい気持ちだった次の瞬間、”元弁理士の経営する会社で、ピコ太郎の「PPAP」を商標として先に出願してしまっている”という内容にドヨーンとなってしまったんですよ!!』

たむきょん先生
『ホントだよね~。下町ロケットでさえ、特許の話なのに、”弁理士”というワードがほとんど出て来ず知名度の低さに凹んでいたのに、こういう、悪いニュースで”弁理士”という言葉が出てくると、やっぱり凹むよね・・・』

鈴木えりな
『ネットニュースや報道番組などでは、他の弁理士や弁護士のかたが、このPPAP先取り事案について、コメントをしていましたが、たむきょん先生は、どんな意見を持っているんですか?』

たむきょん先生
『すぐに、こういうことにコメント出来なかったのは、やっぱり”知財に詳しい”という一方向だけから、正義感に任せてコメントしてはいけないような気がして、じっくり考えていた所なんだよ。だから、質問をくれて、コメントを表明する機会をくれて、ありがとう。』

たむきょん先生
『以下に、今回の事案の解説を含めて、私の公式な見解を書きます』

【疑問1】今回の件は、どういうニュース?

「PPAP」と言えば、エイベックスに所属する人気タレント、ピコ太郎の歌のフレーズとして、有名です。
しかし、それが有名になるかならないか、の時期に、エイベックスとは(おそらく)無関係の他社(以降、「B社」とします)が、「PPAP」を、いくつかの商品分野で、エイベックスよりも先に、商標出願してしまったようです。
エイベックスも欲しい商品について商標出願をしていますが、それはB社よりも1週間遅い日付だったので、素直に考えると、”先に出願したものが尊重される”商標制度のもとでは、このB社の出願が優先的に審査・登録される可能性があります。
もし、このB社による商標が登録として認められてしまうと、「PPAP」という名称を活用した商品をエイベックスや、エイベックスから公式に許諾を受けた企業が販売しようとしたとき、このB社が、「商標権侵害だ!」と言ってくる可能性もあるし、それを避けたければ、エイベックスなどは、このB社に、ライセンス料などを支払わなければいけなくなってしまいます。
こういう、「他人の有名なフレーズを、全くの他人(他社)が、先取り的に、強い権利である商標として先取りしようとする行為」が、今回のニュースの問題点です。

【疑問2】本当に、登録になってしまうの?

結論から言いますと、「登録には200%なりません」。
商標というのは、「使用」よりも「出願」「登録」を優先することで、権利の安定性を保っています。つまり、「俺が先に使ってんだよ!」という水掛け論を防ぐために。
そして、「先に出願をした者」に、「同様の商標を使う他人に、権利行使を可能とする」強い権利、商標権を付与する、という制度です。
ここまで読むと、「じゃあやっぱり、たとえ他人の有名な名称を先取り的に出願したとしても、日にちが早いのであれば、登録になってしまうんじゃないの?」と感じるかもしれません。しかし、商標制度は、こういう、いわゆる「フリーライド」を防止するために、「こういう商標は、登録にできませんよ」という”条件”を設けています。その1つに「登録となっていなくても、他人の著名な名称等を不正目的で出願する行為を認めない」というものがあります(商標法4条1項19号)。
商標は、まず出願がなされ、その出願時に提出がされた「願書」の”書式面”のチェックが、特許庁のほうで行われます。
そして、書式面で、要件を満たした出願は、今度、約半年かけて、”内容面”の審査がなされます。この審査で、”すでに似た商標が、出願されていないか”も、審査されますが、併せて、”すでに似た名称がどこかに存在しないか”も、インターネットや文献などで、審査されます。
この内容面の審査で、今回のB社による”PPAP”の出願は、条件を満たさずに、登録とならない形となります。これは、間違いありません。

【疑問3】他人の有名フレーズの先取り行為は、どうして未然に防げないの?

私は、この【疑問3】が、今回の事案の、もっとも重要なポイントだと思っています。
B社を、個別に悪く言うつもりは全くなくて、むしろ、こういうビジネスセンスが羨ましいぐらいです(汗)
まず、B社を特許庁のデータベースで調べると、例えば、「2016年10月1日」の1日だけで、150件の、商標出願をしていました。
1件の出願に、だいたい「3商品分野」ごと、出願されていましたので、単純に、150件の出願に、必要な「印紙代」は、

438万円

です。これを丁寧に支払っているかと言うと、B社は、出願に必要な印紙代を、ほとんど支払っていません
しかし、商標法5条の2によると、印紙代の支払いがなくても、「商標出願として認定」しなければならないことになっています
そして、この認定がなされた以上、その出願日のあとに、出願がされた、類似商標は、この印紙代の支払いのない商標出願によって、「登録とならない」事態も発生することになります(商標法4条1項11号)。
ただ、ほとんどのB社による出願は、その後も印紙代が支払われませんので、結果的には、長い期間を経て、後日出願がされた類似商標が、登録となります
B社は、おそらく、とにかく急いで、有名になりかけたフレーズを中心にガンガン出願をし、その中でも、引き合いがありそうな出願や実際に引き合いがあった出願について、特許庁に、後で出願手数料を支払う、というやり方をしているように想像します。PPAPも、出願時は印紙代を支払わず、その後昨年末にかけて、一気に、このフレーズが話題となった時に、後で印紙代を支払ったか、支払おうとしたのだと想像します。
これは、B社も、制度上の抜け穴をつついているような行為で、悪い点はあるかもしれません。しかし、制度上の抜け穴自体を修繕していかないと、B社がこの行為を止めても、また別のC社、D社、、、と似たようなやり方で、商標出願を乱発するような可能性があります

【まとめ】

・エイベックスとは無関係の他社による「PPAP」出願は、確実に、登録にはなりません。
・「PPAP」のように、自分のビジネスとは無関係の、話題のフレーズや有名な名称は、他人は登録を得ることはできません。
・今回の問題点は、「商標制度上に抜け道」が存在しうる点です。私なら、「出願日の認定に、出願時印紙代の支払い」も条件としたく考えます。印紙代の支払いが出願と同時に必要であれば、どんなに手広くビジネスを手掛けようとしても、やはりその出費は、最小限にせざるを得なくなります。
・弁理士は、99.9%のかたは、真面目で正義感に溢れた性格です。むしろ真面目すぎるかたが多く、逆にビジネスライクではない点が、玉に傷かもしれないぐらいです。
・なお、特許庁も、こちらの「出願乱発行為」を問題視しており、「出願されていても、諦めないで出願を」という趣旨の注意喚起をしています

鈴木えりな
『とりあえず、安心しました~。商標制度の改正があったら、先生もほんのちょびっとは、貢献したことになりますね(笑)』

 

end